ポーカーにおけるICMとは?
ポーカートーナメントをプレイしたことがあるなら、「ICM」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。ICMとはIndependent Chip Modelの略ですが、実際にどういうものなのでしょうか?
そして、私たちの戦略にどのような影響を与えるのでしょうか?たとえば、普段はキャッシュゲームをプレイしていて、週末にトーナメントを試したり、フリーロールのチケットを手にしたりする場合、ICMを意識するべきなのでしょうか?
ICMは、複数のプレイヤーに賞金が分配されるトーナメント で適用されます。なぜなら、トーナメントではすべてのチップを獲得しても、すべての賞金を手に入れるわけではない からです。
たとえば、9人制のSit & Go(SnG) を例にすると、賞金配分は 1位:50%、2位:30%、3位:20%となるケースがよくあります。
つまり、最終的にすべてのチップを獲得しても、賞金総額の半分しか受け取れません。したがって、トーナメントではチップを失うことのデメリットが、チップを増やすことのメリットよりも大きい という性質があります。
このため、トーナメントではリスクを抑えたプレイが重要 になります。
ある程度、これは直感的に理解できるかもしれません。最後のチップを失ったらゲームオーバーですが、1枚でもチップが残っていれば逆転の可能性はゼロではありません。
ただし、ICMには数学的な根拠もあります。ここからは、その数値的な側面について詳しく見ていきましょう。
ICMの計算には、ICMIZERを利用しています。
トーナメントやSit & GoにおけるICM
序盤におけるICM
9人制SnGを例にすると、各プレイヤーは1500チップでスタートします。
もし全員の実力が同じなら、それぞれのICMは賞金プールの11.1% となります。つまり、1500チップ = 賞金プールの11.1%ということです。

では、2人のプレイヤーがオールインし、1人が勝ったとしましょう。すると、勝者は 3000チップとなり、残りの7人はそれぞれ1500チップのままです。(簡単のためブラインドやアンティは考慮しません)
この状況をICM計算機に入力すると、3000チップを持つプレイヤーのICMは20.3%となります。

つまり、スタックを2倍にしても、ICMの値は2倍にならず83%しか増加しないのです。
このため、たとえば後ろのポジションで A♠K♠を持っていたとしても、序盤で75BBのオールインに対しては、キャッシュゲームよりも慎重にフォールドを検討すべき です。
バブル時におけるICM
残りのプレイヤーが減り、賞金獲得に近づくほど、ICMはより重要になります。
9人制SnGでは、残り4人になった時点で、均スタックが均等の場合には各プレイヤーのICMは賞金プールの25%になります。

ここで、1人のプレイヤーが他の1人を飛ばした場合、彼のICMは38.3%に増加します。つまり、スタックが2倍になっても、ICMの値は53%しか増加しません。

トーナメントのこの段階では、ブラインドやアンティが相対的に大きくなっている ため、チップを増やすことの価値も少し上がります。
しかし、ハイパーターボのようにブラインドが極端に速いトーナメントでない限り、オールインで全チップをリスクにさらすのは慎重に考えるべきです。
特にコールには慎重になるべきです。逆に、自分がオールイン(ジャム)する側なら、他のプレイヤーがフォールドする可能性があるため、リスクは少し抑えられます。
このため、直感に反するかもしれませんが、オールインをコールするよりも、自分からオールインを仕掛けるほうがリスクが低いことが多いのです。
ICM戦略の具体的な調整ポイント
ICMが重要な場面では、オープンレイズのサイズを小さくするのが一般的 です。
キャッシュゲームのように 3BBのオープンレイズ を続けると、相手にオールインされたときに フォールドすると多くのチップを失うため、不利な状況に陥ります。
また、コールされることが非常に不利になるため、相手のプレイスタイルも考慮する必要があります。
キャッシュゲームと同様に、フィッシュ(初心者や弱いプレイヤー)はフォールドを嫌う傾向があります。そのため、たとえばA♥5♥でフィッシュ相手にブラフのオールインを仕掛けるのは危険 です。
もし相手が J♣8♦で「こいつはブラフだ」と思ってコールしてきた場合、ICMを考慮するとEV(期待値)の面で損をする可能性が高い です。
不均等なスタックにおけるICM
これまで、すべてのプレイヤーが 同じスタックサイズを持っていると仮定して説明してきました。しかし、トーナメントが進むにつれて、すべてのプレイヤーが均等なスタックを維持することはほぼありません。
再び 9人制SnGのバブル を例に考えてみましょう。
ここでは、1人のプレイヤーが 全体の10%のチップ を持ち、残りの3人がそれぞれ30%のチップを持っていると仮定します。このような状況では、ICMはさらに重要になります。
このときのICM値は次のようになります。
3人の大きなスタックを持っている3人は賞金プールの29.1%、10%のチップを持つショートスタックは賞金プールの12.7%になります。

ここで注目すべき点は、ショートスタックのICM値が、実際にはチップを失っている(1500→1350)にもかかわらず、開始時(11.1%)よりも増えている ということです。これは単純に、5人のプレイヤーよりも長く生き延びたことで価値が上がったのです。
大スタック同士のオールインの影響
では、大きなスタック2人がオールインした場合 を考えてみましょう。その結果、1人が60%のチップを獲得し、もう1人が飛んで、残るのは30%のスタックのプレイヤー1人と、10%のショートスタックのプレイヤーになります。
この時のICM値は、60%のチップを持つプレイヤーは41.2%、ショートスタック(10%)のプレイヤーは24.9%になります。

ここで興味深いのは、60%のチップを持つプレイヤーのICM値は、スタックが2倍になったにも関わらず42%しか増えていないという点です。
一方で、ショートスタックのICM値は96%も上昇しています。つまり、実際にリスクを負って戦ったのは大スタックのプレイヤーですが、一番得をしたのは何もせずに生き延びたショートスタックなのです。
リスクを最小限に抑える
この例からわかるように、バブルや賞金の大きな変動がある場面では、チップを失うリスクを最小限に抑えることが非常に重要 です。
特に 自分よりもはるかに少ないスタックのプレイヤーがいる状況では、安易にオールインを受けないことが大切 です。
このような状況は、大規模なポーカートーナメントのファイナルテーブルでよく見られます。
この場面では、ビッグスタックのバリューベットに対してフォールドを選択することで、すべてのチップをリスクにさらさずにショーダウンまで持ち込むことを検討すべきケースが多くなります。
また場合によっては、チップリーダーに対してマージナルハンド(微妙な強さの手)でのプレイ自体を避けることも選択肢に入ります。
なぜなら、チップリーダーはこの状況を簡単に利用し、あなたにプレッシャーをかけてくるから です。
ヘッズアップでのICM(ファイナルテーブル)
さて、あなたはファイナルテーブルを賢明にプレイし、運も味方につけてついにヘッズアップ(1対1の対決) までたどり着きました。
この場面では、ICM(独立チップモデル)は極めてシンプル になります。なぜなら、そもそもICMが存在しない からです。
優勝するためには、すべてのチップを獲得する必要がある ため、各チップのICM価値は同じ になります。つまり、ICMを考慮する必要がなくなる ということです。
ヘッズアップポーカーは、リングゲーム(キャッシュゲーム)とは大きく戦略が異なります。ただし、これは本記事のテーマとは異なるため、詳しくは触れません。
ICMの解説まとめ
ICMには 1つ重要な限界 があります。それは、将来的なプレイアビリティ(プレイのしやすさ)を考慮しない という点です。
以前に ミドルスタックのときはチップリーダーとの大きなポットを避けるべきと説明しましたが、逆に言えば、自分が大きなスタックを築き、「チップブル(チップで圧力をかけるプレイヤー)」になれば、有利に立ち回れるということでもあります。
WSOPといった大きなイベントでも、この戦略を無意識もしくは意識的に活用していたプレイヤーがいるかもしれません。
ICMを完全に無視するのはリスクですが、大規模なトーナメントの序盤では、ICMをあまり気にせず「大きく勝つか、さもなくば飛ぶか」の精神で積極的にチップを集める戦略も有効です。
しかし、バブルが近づいたときや、ファイナルテーブルに進んだときは、ICMを強く意識することが絶対に必要 です。
もし ポーカートーナメントで安定して利益を出したいのであれば、ICMを理解し、それを活かしたプレイを徹底することが重要です。